環境保護やSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、広がりを見せているのが動物性の素材を使わないヴィーガンレザー。そのヴィーガンレザーのなかでも近年注目を集めているのが、きのこレザーです。
きのこレザー(マッシュルームレザー)とは?
きのこレザー(マッシュルームレザー)とは、きのこの菌糸体(きんしたい)を培養して作られたヴィーガンレザーです。
菌糸体とは枝分かれした菌糸の集合体で、きのこ類における栄養体です。英語では「mycelium(マイセリウム)」とよばれます。私たちが普段店頭などで見かけるきのこは、正確には子実体(しじつたい)であり、この子実体の下(地中)で根を張っているのが菌糸体です。
菌糸体は短期間で成長し再生可能という利点があります。さらに土に埋めても微生物によって生分解されるため、環境負荷や持続可能性の点からも注目されています。
きのこレザー(マッシュルームレザー)の製造工程
きのこレザーの製造は、まずきのこの菌糸体を培養するところから始めます。菌糸体の胞子をシートに植え付け、おがくずや有機物などを与えながら室内で育成します。成長した菌糸体を圧縮して平べったくしたり、洗浄・乾燥してから粉砕したりしてから、なめしや染色を施して革のようにシート状に加工します。
そもそも、ヴィーガンレザーとは何か?
そもそもヴィーガンレザーとは、動物性の素材を使わない人工皮革です。ヴィーガンレザーの名前は、英語の「vegan(完全菜食主義者)」に由来します。ヴィーガンレザーには大きく分けて2種類あり、プラスチックや合成樹脂など人工素材を使ったもの(合成皮革)と、植物などの天然素材を使ったものがあります。合成皮革は、基布(きふ)となる織物を芯として、その上にポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂などを塗布し本革に似せたものです。
天然素材を使ったものは、りんごの皮やパイナップルの葉、サボテンなど植物からできる繊維で作られます。きのこレザーも天然素材のヴィーガンレザーに分類されます。どちらも動物性の革に比べて水濡れに強く、耐久性に優れているのがメリットです。
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きのこレザー(マッシュルームレザー)の特徴
きのこレザーの特徴は大きく以下の3つになります。
環境負荷が低い
きのこレザーに使われる菌糸体は、培養することで簡単に再生ができ、たったの2週間ほどで育ちます。一度に育成できる量も多く、サッカーコート6つ分の菌糸体を1日で育成できるとされています。またきのこの生育に必要なのは、水ときのこを育てる人工的な環境である培地(ばいち)の表面を覆うマルチング材のみで、広いスペースや特別な資材はいりません。
培地に、糖蜜(とうみつ)という砂糖の残液を使うきのこレザーブランドもあります。糖蜜は砂糖の製造工程で必ず出るものですが、産業廃棄物として処理されることが多いのが現状です。糖蜜を菌糸体を培養するための基盤としてアップサイクルすることで、産業廃棄物の削減になります。
育てるために資源や場所を必要とせず、短期間で培養できるきのこは環境への負荷を大きく削減できるのです。加えて、きのこレザーは生分解性なので、土に埋めても微生物や菌類によって分解されます。廃棄物として環境に影響を与えないのも特徴の1つです。
本革の風合いに近い質感
本革に近い、なめらかでやわらかい質感があります。きのこの細胞壁には、キチンという物質が含まれています。キチンはエビ・カニなどの甲殻類やきのこの細胞壁に含まれる成分で、本革のような革の弾力を生み出します。コラーゲンのような働きをするため、人工皮膚などにも使われています。
耐久性に優れている
菌糸体は動物性の革に近い構造であるため、きのこレザーは本革に劣らない耐久性を兼ね備えています。水濡れやキズにも比較的強いです。
きのこレザー(マッシュルームレザー)のお手入れ方法
普段のお手入れは、乾いた布で革表面のついたほこりを拭きとる程度でOKです。汚れがついたら、少し湿らせた布でやさしく革表面を拭きとってから、乾いた布で水分をとりましょう。
なお、保管は直射日光が当たらない風通しの良い場所をおすすめします。湿気がこもる場所や直射日光に当たる場所だと、革が傷む可能性があるためです。
まとめ
環境負荷が少ないうえに、本革のような耐久性やなめらかさを実現したきのこレザー。これからの時代に合わせたサステナブルなきのこレザーを、ファッションアイテムの候補に入れてみてはいかがでしょうか?