革の本場といえばイタリアです。多くの老舗タンナーが長い歴史を紡ぎながら今日も上質な革を作り続けています。今回はイタリアで生まれた伝統的な皮革「バケッタレザー」について解説します。
バケッタレザーとは?
「バケッタレザー」は、イタリアで何世紀も受け継がれている独自製法、「バケッタ製法」で作られている革です。「vaqueta(バケッタ)」とはスペイン東部のカタルーニャ語で、「牛」や「牛革」を意味します。
革大国イタリアの中でも、特に革産業が盛んなのがトスカーナ州です。トスカーナ州を中心に作られる革をすべて「イタリアンレザー」と呼びます。植物性のタンニン(ベジタブルタンニン)でなめされているのが特徴で、他にもいくつかの認定基準をクリアしたものだけがイタリアンレザーを名乗れます。
バケッタ製法はこのイタリアンレザーの独自製法の1つです。バケッタレザーの大きな特徴は以下の2つです。
- 植物性のタンニンでなめされている
- 牛脂・魚脂などが革の芯まで加脂されている
です。 タンニンなめしは、クロムなめしに比べてはるかに時間がかかります。
ミモザやチェスナッツなどの樹木から抽出される植物性のタンニン(ベジタブルタンニン)でなめした後、さらに牛脂や魚脂、植物性オイルなどを独自に配合し、革の芯までじっくりと染み込ませます。 この丁寧な加脂の工程もバケッタレザーの大きな特徴です。
バケッタレザーの歴史
バケッタレザーの歴史は古く、14世紀にイタリアで始まった文化運動「ルネサンス」の時代まで遡ります。ルネサンス時代のイタリアでは、「金唐革(きんからかわ)」と呼ばれる装飾革が生まれました。
唐草や花や鳥などをかたどった繊細な模様が特徴で、椅子の背部分や書物の表紙(カバー)などに使われていました。 イタリアで革産業が発展したこの時代に、バケッタ製法も誕生したのです。
バケッタ製法とクロムなめし製法の違い
昨今はクロムなめしが一般的です。 化学薬品の塩基性硫酸クロムを使うと、短時間で効率的になめすことができます。クロムでなめされた革はやわらかく頑丈ですが、エイジング(経年変化)はあまり起こりません。
反対にバケッタ製法は、植物性のタンニンを使って長時間じっくりとなめします。 植物性のタンニンとオイルによって、深いエイジング(経年変化)が楽しめます。 全工程に2ヶ月と非常に手間のかかる製法のため、イタリアでは一時期衰退していましたが、イタリアの老舗タンナー「バダラッシカルロ社」によって復刻しました。
バケッタレザーで作られるレザーの種類
バケッタ製法で作られるイタリアンレザーはさまざまな種類があります。代表的なものをいくつかご紹介します。
ミネルバ・リスシオ
「ミネルバリスシオ」は、バダラッシカルロ社が製造するバケッタレザーの1つです。「リスシオ(Liscio)」とはイタリア語で「なめらかな」の意味があり、その名の通りなめらかですべすべとした質感が特徴です。通常の革よりもオイルを多く含み、シボなどもないため、深みのある強いエイジング(経年変化)が味わえます。
プエブロ
「pueblo(プエブロ)」もバダラッシカルロ社製の革です。プエブロは見た目が特徴的です。細かな繊維が革表面全体にあり、微細な傷がたくさんあるような、ざらついた質感に見えます。 原皮にあったシワがそのまま残った「トラ」があることもあり、天然の革の魅力が感じられます。あえて革を毛羽立たせてからブラシで磨き上げるため、ザラザラした触り心地です。使っていくうちに毛羽立ちがなめらかになじんでいき、他の革よりも早くはっきりとしたエイジング(経年変化)が出ます。
オリーチェ
タンナーの「ORICE(オリーチェ)社」が作るのが「オリーチェ」です。透明感のあるツヤ感が特徴のバケッタレザーで、使ううちにツヤが増して美しいエイジング(経年変化)を味わえます。やわらかく手になじむ手触りもポイントです。
ブルガロ
イタリアの老舗タンナー「Lo Stivale (ロ・スティバーレ)社」のバケッタレザーです。つるつるとなめらかな表面の質感が特徴で、スムースレザーの1つでもあります。豊かなシボや輝くようなツヤはありませんが、するっとなめらかな質感は多くの革愛好家の間で人気があります。
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マットーネ
「マットーネ」は生後半年以内の子牛の革(カーフスキン)です。子牛の革(カーフスキン)は牛革のなかで最高級といわれています。タンナーはバダラッシカルロ社です。やわらかく弾力のある革表面にはうっすらとシボがあり、傷やシワもそのまま個性として活かされます。また、卵白を革に塗りこむガゼイン加工が施されており、これによって独特な光沢が生み出されています。
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エルバマット
「TEMPESTI(テンペスティ)社」のバケッタレザーです。 エルバマットの特徴はビビッドな発色です。通常の約2倍のオイルを含んでおり、しっとりとした質感に鮮やかな色が映える、きれいなバケッタレザーです。 エイジング(経年変化)では、カラーレザーならではの独特な色変化も楽しめます。
ネブラスカ
ロ・スティバーレ社のバケッタレザーです。 シュリンク(収縮)加工を施してあるので、革表面にはギュッと繊細なシボがあります。革質はもちっとやわらかく、オイルを含んでいるためしっとりしています。
ミネルバボックス
バダラッシカルロ社のバケッタレザーです。シボがなくマットなミネルバリスシオに比べ、ミネルバボックスは豊かなシボが特徴です。
樽状の機械の中でドラム式洗濯機のようにぐるぐると乾燥させることで、独特のシボが生まれます。この工程は「空打ち(からうち)」と呼ばれます。 空打ちすることでシボだけではなく、革が良く揉みほぐされてやわらかくなります。
バケッタレザーのエイジング(経年変化)
バケッタレザーは革のエイジング(経年変化)を楽しみたい方におすすめです。
バケッタレザーは植物性タンニンでなめされて、芯までじっくりとオイルが染み込んでいます。
タンニンに含まれている「渋(しぶ)」が空気や紫外線にさらされることで酸化して色が変化していきます。少しずつ革内部のオイルも革表面にじんわり染み出してくるので、使うほどに味わい深いツヤが生まれます。
またバケッタレザーは、エイジング(経変変化)のスピードが他の革と比べると早いです。 短期間で美しく変化していくさまは、バケッタレザーならではの醍醐味です。
バケッタレザーの手入れ方法
バケッタレザーは頑丈なため、普段のお手入れは革表面の汚れやほこりを落とす程度で十分です。乾いたやわらかい布やクロス(ファイバークロス)で、革表面をサッと乾拭きしましょう。
またバケッタレザーには、深くオイルが染み込んでいます。そのためオイルやクリームでのお手入れはあまり頻繁にしなくても問題ありません。
どうしても革表面のパサつきが気になるときは、革用お手入れクリームやオイルを乾いた布に少量つけて、優しく革表面になじませます。油分が多すぎるとカビが生えてしまうため、あくまでも乾燥が気になるときだけにしましょう。
バケッタレザーは、雨や汗などで色落ちしやすいので注意
また雨や汗などの水濡れにも気をつけましょう。 バケッタレザーは染料染めの製品が多く、濡れた状態で服や肌に触れると色落ちすることがあります。特に白やパステルカラーなど色移りしやすい服を着るときには注意しましょう。
CRAFSTOが提供するバケッタレザー製品について
最後に、CRAFSTOオリジナルのバケッタレザー製品を2つご紹介します。イタリアで長年受け継がれるバケッタレザーの魅力を、ぜひ体感してみてください。
NEBRASKA ネブラスカ L字ファスナー財布
ポケットに入れてもかさばらないスリムなL字ファスナー財布です。ファスナーの開閉はスムーズで使いやすく、しっかりと閉まるので財布の中身が飛び出る心配もありません。
内装にはロ・スティバーレ社のバケッタレザー「ネブラスカ」を使用。シュリンクレザーならではのもちっとした感触と、表情豊かなシボが特徴です。スタンダードなネイビーと、明るい印象のライトブラウンの2色を揃えています。どちらもバケッタレザーならではの美しいエイジング(経変変化)を楽しめます。
Shell Cordovan シェルコードバン 二つ折り財布
片手にすっぽりと収まるコンパクトタイプの二つ折り財布です。小さいながらも収納力は抜群です。ワンアクションでスムーズに開閉が可能です。内装にはイタリアのロ・スティバーレ社のバケッタレザー「ブルガロ」を使用しています。美しい発色で、財布を開くたびに目を楽しませてくれます。 外側に使ったブライドルレザーの堅牢さと、内側のブルガロのやわらかさ、2つの質感を楽しめる財布です。